大阪高等裁判所 平成9年(ウ)1012号 決定 1997年11月21日
申立人
京都府洗染クリーニング協同組合
右代表者代表理事
土野一雄
右訴訟代理人弁護士
菱田健次
同
菱田基和代
被申立人
株式会社ペキシム
右代表者代表取締役
西山正彦
主文
一 本件申立を却下する。
二 申立費用は申立人の負担とする。
理由
一 申立の趣旨
当庁平成七年(ウ)第一一五二号強制執行停止命令申立事件について、被申立人が平成七年一〇月一八日株式会社富士銀行(梅田支店)との間で、金七五〇〇万円を限度とする支払保証委託契約を締結する方法によりなした担保を取り消す。
二 事案の概要
1 申立人と被申立人間には、京都地方裁判所平成四年(ワ)第一五七四号損害賠償請求事件につき、平成七年一〇月四日言渡された判決がある。この判決は、被申立人が申立人に対し、五億円及びこれに対する平成二年一〇月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払うことを命じ、これについて、仮執行宣言を付している。被申立人は、右判決について、当庁に控訴を申立てる(当庁平成七年(ネ)第二七三四号損害賠償請求控訴事件)とともに、右仮執行宣言付判決の執行力ある正本に基づく強制執行の停止を命ぜられたい旨申し立てた(当庁平成七年(ウ)第一一五二号強制執行停止命令申立事件)。これに対し、当庁は、平成七年一〇月一八日、右強制執行は、申立人が保証として、株式会社富士銀行(梅田支店)との間に、金七五〇〇万円を限度とする支払保証委託契約を締結したときは、本案判決をなすに至るまでこれを停止する旨の決定をした。
2 被申立人は、平成七年一〇月一八日、右強制執行停止命令申立事件の保証として、株式会社富士銀行(梅田支店)との間で、保証先(担保権利者)を申立人とし、保証限度額を七五〇〇万円とする支払保証を同銀行に委託し、同銀行はこれを受託する趣旨の支払保証委託契約を締結し、かつ右保証委託の担保として、同銀行に預けた金額七五〇〇万円の定期預金に質権を設定した。
3 当庁は、平成九年七月一八日、前記控訴事件について判決を言渡し、右判決においては、原判決を変更し、被申立人は、申立人に対し、金五億円、及びうち金四億一〇〇〇万円に対する平成三年八月二〇日から、うち金九〇〇〇万円に対する平成四年六月一二日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うことを命じ、これについて仮執行宣言を付した。
4 申立人は、当庁平成七年(ネ)第二七三四号損害賠償請求控訴事件の右仮執行宣言付判決にもとづき、右判決で支払を命じられた遅延損害金七五〇〇万円を請求債権として、京都地方裁判所に、債権差押転付命令を申立て(同裁判所平成九年(ル)第六五三号、同年(ヲ)第八七二号)、同裁判所は右申立に基づき平成九年八月一五日、前記支払保証委託契約について担保に供された預金である被申立人名義の(1)定期預金、(2)普通預金、(3)別段預金の各預金債権及び同預金に対する預入日から右命令送達日までに発生した利息債権について差押え及び券面額による転付命令を発し、右命令は平成九年九月一日の経過により確定した。
5 申立人代理人は、平成九年一〇月三日付け内容証明郵便をもって、株式会社富士銀行に対し、前記支払保証委託契約にかかる同銀行の保証債務の履行請求権を放棄する旨の意思表示をし、右書面は同月二〇日同銀行に到達した。
6 右事実関係の下で、申立人は、前記債権差押転付命令により、被申立人の支払保証委託契約の委託者の地位を承継し、かつ担保の事由が止んだと主張して、本件担保の取消決定を求めている。
三 当裁判所の判断
1 申立人は差押転付命令により被申立人の銀行に対する定期預金債権を取得し、その承継人になっている。
2 しかし、定期預金債権と支払保証委託者の地位とは別個のものであるから、この差押転付命令によって、被申立人の支払保証委託契約上の地位が申立人に移転するものではない。右定期預金債権には右契約上の被申立人の債務を担保するために質権が設定されているが、受託者の銀行が担保を要求するかどうかは、その銀行の自由であって、右質権設定は支払保証委託契約に必ずともなうべきものではない。支払保証委託契約締結の方法による担保が担保として実効があるのは、保証人の銀行が支払能力に疑問がないところにあり、被申立人の預金債権にあるわけではない。この点で供託所に金銭を供託する方法により担保が提供された場合とは異なっており、供託金取戻請求権が転付された場合に関する判例を本件に類推することはできない。
3 申立人としては、担保権を実行することにより、被担保債権を回収することができるし、あるいは担保権(銀行に対する保証債権)を放棄することにより定期預金上の質権を消滅させて定期預金の承継人として払戻しを求める方法も存するのである。なお、民事訴訟規則二条の二第一項二、三号は、担保義務者(被申立人)と銀行の間で支払保証委託契約を終了させて担保権者の権利を害することを防ぐことを目的とする規定であって、担保権者自身が任意に、銀行に対して保証債権を有効には放棄できないとするものではない。
4 そうすると、申立人は本件の担保につき担保取消申立をする適格を有しないからこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官井関正裕 裁判官河田貢 裁判官高田泰治)